STUDY研究活動・社会貢献
Powers of Taiwan -台湾諸都市における大きな建築・大きな空間について-
太田 圭一 (KEIICHI OOTA)
台湾の諸都市の印象について
今回の旅行では、台北・台中・豊原区の各都市に訪れた。通りの第一印象は、どれも「ちょうど良い大きさ」というものであった。ちょうど良く歩ける街路、ちょうど良いお店の広さ、ちょうど良い街並み、ちょうど良い歴史的な建物、などなど。「ちょうど良い」はというのはヒューマンスケールと言ってしまってもいい。歩いていて楽しい、羨ましいくらいの賑わいが、どの都市でも溢れていた。
そんな中にあって、異質に感じられる領域というのもあった。すなわち、やたら大きいと感じる空間や、スケールアウトしている建物である。
これは何なのか。この曖昧模糊とした感覚に、形を与えてみたい。そう思って、この視察記は、スケール(特にビッグスケールな建物)をテーマとしてみた。
タイトルは「Powers of Taiwan」。Charls.Eames「Powers of ten」をもじった。ちなみに“Power”は“力”ではなく“べき乗”の意である。すなわち「10のべき乗」。スケールという視点で世を捉えることで、いろんな世界が見えてくる。
以下、大きさをいくつかに類型化して、大きな建築物や空間がつくられる理由を自分なりに整理してみたい。
理由1:プログラムがそうだから:Form Follows Function
形態は機能に従う。シカゴ派の建築家、ルイスサリヴァンの言葉である。ある建物が巨大なのは、内包する機能がそれだけの大きさを必要とするからだ。
台北世界貿易中心は、展示空間としては159,329㎡。年間を通じ、数多くの、大規模で国際的なイベントが開催されている。これに対応するため、必要な大きさであるといえよう。ちなみに、東京国際展示場(ビッグサイト)が230,873㎡、東京国際フォーラムが約145,000㎡、幕張メッセが延床面積で75,098㎡(幕張メッセのみ総展示面積、他は延床面積)であり、国際的な展示場としてみると妥当な大きさと言えようか。
▼展示場の入る建物
▼台北世界貿易センター・ガレリア
高鐵台中駅が2つ目の事例である。駅の規模自体は、日本の大都市に立地する駅と比較してもそう違いはない(大きいには大きいが)。何が大きいと感じるかというと、交通ハブを集約しているフロアである。
駅は立体的な構成で全3層(1・2階:コンコース、3階:プラットフォーム)である。コンコースは、2階が人の動き回る大規模コンコース、そして1階が、多種類の交通処理を可能とする大きな外部空間である。アクティビティを切り口として階層で区分し、1層丸々使って交通処理が可能な、大きな交通広場を生み出している。
バスロータリー、マイカー駐停車、タクシープール、自転車駐輪場など、多種類の交通処理系が、複数ある。これらをうまくゾーニングできているのは大きな広場のおかげであろう。
▼1階部分の様子
▼サイクリングポート
▼タクシー
▼バスロータリー
▼交通情報提供システム
▼層別に動線を分けたフロア構成
理由2:まちのシンボルだから: Landmark
理由の2つ目は、まちにとって重要な位置づけにあるものを、シンボリックなものとするため、である。シンボルはランドマークと言いかえることもできよう。
高鐵台北駅は、外観はマッシブなキューブである。建物を道路から大きく後退させ、歩行者溜まりをつくっている。大きさ自体は周辺の高層ビルよりと比較してもそれほどでもないが、後退距離が大きいため、建物輪郭線全体が鮮明になり、街並みに溶け込むことがない。結果として、周囲から際立ち、「大きい」と感じることになる。
とはいえ、本当に大きいと感じたのは、施設内部につくられた大吹き抜け空間である。6層くらいのショッピングセンターが四方を囲んでいる。天井はガラス屋根がかけられている。純然たる内部空間ではあるが、人々のアクティビティが全て受け止めていて、さながら都市の広場空間のようでもあった。
▼台北駅・内部の大吹き抜け空間(台北市)
▼台北駅・外部空間(台北市)
▼台北駅・吹き抜け空間足元(台北市)
シンボルの2つ目。台中オペラハウスである。
台湾はアジア諸国の中でも特に文化に力を入れ、多額の予算を劇場文化にかけているといわれている。 このオペラハウスも国直轄である。国家的にもシンボリックな建物であることを、求められているといえよう。
オペラハウスは、市庁舎や市議会等の建物に挟まれた立地する場所に位置する。軸状に設計された公園の、ちょうどアイストップとなる位置に配置されている。ランドマークとの要件としては、抜群の立地である。
また、建物と同じくらいに、足元の広場もまた大きい。敷地四方からの空きをだいぶ取っており、より一層建物が目立つように配置されている。
▼オペラハウス外観
最後の事例。國父紀念館を挙げる。國父紀念館は中華民国の建国の父、孫文の業績を讃え建立されたものである。この紀念館の前庭のように広がっているのが、中山公園であり、総面積約4haを誇る。
これまた、建物自体は、敷地から広く空きをとっている。また、一見すると家屋のようなデザインで、道路から見ると、視覚効果もあって建物はそれほど大きく感じられない(実際は大きい)
広いと思ったのは、周囲のまちとの関係である。南側の道路を挟んで向かいのブロックでは、非常に高密の建物が建ち並んでいた。このブロックを抜けて紀念館にたどり着いたが、一気に視界が開けた感覚があり、大きさを感じ取った。
▼國父紀念館・中山公園(台北市)
▼周辺から際立つ大きさ(GoogleMapより)
大きいから:Bigness
Bigness。「大きいから大きい」。そう言われると実も蓋もないし単なるトートロジーにしか聞こえない。だがこの種の建築物が存在する、というのが建築家Rem Koolhaasの主張である。
建築はあるスケールを超えると、ビッグという資質を獲得する。(中略)ビッグネスでは中心と外皮があまりにも離れすぎていて、ファサードは中で何が起こっているのかを伝えることができない。(中略)たんに大きいというだけで、建物は善悪を超えた、道徳と無関係の領域に入る。建物のインパクトはもう質と関係がない。(中略)ビッグネスはもはや都市を必要とせず、むしろ都市と競合しあう。都市を表象する。都市をつくり出す。いや、なお良いことに、それ自体が都市である。
台湾においては、TAIPEI 101を例としてあげることができる。一時期、世界一の高さを誇るといわれた。101とは101階という意味だ。高さは509.2mある。低層部(5階まで)が商業施設、高層部に金融・IT系オフィスが入居している。
ファサードデザインのコンセプトは竹の“節”である。Koolhaasのいうように、確かに世界でしのぎを削る国際的な企業が入っているなんて、竹の節を創造しただけでは思いもよらない。
▼TAIPEI101
結論
ここまで、「プログラム」「シンボル」「ビッグネス」というキーワードで、ある種の建築物なり空間が、大規模スケールとなる理由を考えてきた。
ただ、建築、あるいは都市は、スタティックなものではなく、人がいて、生産・消費活動が行われる、ダイナミックな舞台である。これまで見てきた大きな建築物・空間でも、あふれるほどのアクティビティが展開していた(特に台北は人口密度がやたら高い。広い空間であっても、この人口の波の前では、「適度な大きさ」になるのである)。
狭い空間(夜市や亭仔脚)も広い空間も自由自在に使いこなす人々が、まちの活気を生み出す原動力となっている。この空間とひとの関係がまちの風景を生き生きとしたものしていると思う。
台湾諸都市では、今現代建築ラッシュである。その中から「大きい」ものをピックアップしてみる。
TaipeiTechnologyCenter(BIG)敷地面積53,000㎡、57m×57m×57mのキューブ/
Taipei Performing Arts Centre(OMA)延床面積50,000㎡、高さ63m/
臺北南山廣場プロジェクト(三菱地所設計)計画面積17,708㎡、延床面積201,800㎡、最高高さ272m/
21世紀のオアシス(藤本壮介 コンペ一等案で見直し中)高さ300m
実はどのプロジェクトも、人の動線や都市活動をいかに建築・空間づくりにリンクさせるか、ということを設計コンセプトとしているものが多い(特にBIGのプロジェクトは秀逸)。結果として、それが優れた建築案に結びついているように感じる。
台湾のアクティビティは、これからも新しい都市づくり・建築デザインの源泉となり、無限の可能性を秘めていると確信した。