STUDY研究活動・社会貢献
UDCK 柏の葉アーバンデザインセンターというまちづくり組織
澤田 幸枝 (YUKIE SAWADA)
研修旅行での柏の葉スマートシティ見学の翌週、UDCK柏の葉アーバンデザインセンター主催のアーバニスト養成講座への参加の機会に恵まれた。三井不動産による柏の葉スマートシティ見学ツアーと合わせて、柏の葉スマートシティでのまちづくりにおける取組についてまとめる。
UDCK設立の経緯
柏の葉のまちづくりは、1985年常磐新線の計画策定を発端としている。1994年のつくばエクスプレス起工と同時に土地区画整理事業が進み、東京大学や千葉大学などの大学機関が誘致された。2006年には、国際キャンパスタウン構想策定に携わっていた東京大学北沢教授が、連携拠点としてのアーバンデザインセンターの設置を提唱し、柏の葉アーバンデザインセンターが設立された。高質なまちづくりを謳うUDCKの理念は、まちのブランド化を推進する三井不動産のコンセプトとも一致するものであった。柏市にとっても、国際キャンパスタウン構想を実現していくためには、地域や企業との連携は欠かせないものであり、その中心となる拠点としてUDCKが位置づけられた。これにより、柏市、三井不動産、東京大学など*1の「公・民・学」の連携を柱とするアーバンデザインセンターが始動した。
*1 UDCKの構成団体は「公」として柏市、柏市まちづくり公社、「民」として三井不動産(株)、首都圏新都市鉄道(株)、柏商工会議所、田中地域ふるさと協議会、「学」として東京大学、千葉大学が参画している。
▼柏の葉キャンパス駅前にあるUDCK
UDCKの主要な機能
UDCKには、「公・民・学」それぞれの分野から、専任の職員が常駐し、様々な企画・提案、関係者の調整を図りながら各プロジェクトを推進している。
①質の高いデザインマネジメント
UDCKは、柏の葉全体の空間デザイン面での専門的な支援機能を担っている。西口駅前広場・駅前線は、特に重点的にデザインの高質化を図るエリアとなっている。
具体的な例では、道路管理者や交通管理者等との協議・調整を行い、駅前線の歩道上に、常設のベンチなどを置いて寛げるスペースを設けて公共空間を活用している。
▼駅からのメインストリート歩道の設え
②コーディネートとオーソリティ
UDCKの「公・民・学の連携」は、大学組織等の「学」が主体的に関与することが大きな特徴である。柏の葉をフィールドとした調査・研究・実践を行い、知見を提供しながら、地域との連携を図る様々な場のコーディネートを進めており、ワークショップやまちづくりに関する講座などが積極的に設けられている。
また、地域だけでなく、企業・行政との連携を図る際にも、中立的な立場として参加することで、調整・協議の円滑な運営が期待されている。
下の事例では、写真右側の歩道橋下部分の歩道は市の所有する歩道になっている。左側の歩道は民地である。歩道として一体感を出すために、全体の表面を統一した素材で仕上げている。こういった細部の協議・調整においても、「学」としてのUDCKが機能している。
▼所有者が違う歩道の表面の調整事例
③住民活動・エリアマネジメント支援
三井不動産による柏の葉スマートシティの不動産販売開始後は、人口が増加し、住民同士のネットワークの形成においいてもUDCKの役割が求められるようになった。住民のコミュニティづくりや住民活動を促すため、UDCKが空間活用のノウハウを提供している。
現在は、柏の葉キャンパス駅周辺のエリアマネジメントの母体として、マンション住民と立地事業者で構成される「柏の葉キャンパス駅前まちづくり協議会」が設立され、防災や子育て支援、美化・緑化などに取り組んでいる。こういった仕組みづくりをはじめ、様々なプログラムを企画・運営し、地域が主体となってエリアマネジメントの実践を行っている。
▼足りなかったにぎわい(飲み屋さん)を集積するプロジェクト「かけだし横丁」
「学」の役割(学術機関の方のおはなし)*2
UDCKにおける大学機関の役割は「専門性」と「中立性」である。それらを保ちながら以下の機能を提供していくことが求められている。
1)継続的な専門性の提供(意思決定や企画、課題分析などに寄与する助言)
2)人材提供(学生などの積極的な地域活動への参画を通じた活動の活発化)
3)人材育成(ワークショップやセミナーなどを通じた学習機会の提供による人材育成)
4)理論・技術提供(社会実験などで培った理論や方法論の適用など、知財の提供)
5)リーダーシップ(行政間あるいは行政・住民・民間企業間のコーディネート、意思決定の支援・主導)
6)パブリシティ(活動成果の理論化、学会や会議等での発表を通じた情報発信)
7)活動資金(研究費、補助金等を含めた地域活動と関連した諸活動資金の獲得と提供)
*2 アーバニスト養成講座での講義資料から。
▼画像:柏の葉アーバンデザインセンターホームページから借用
柏の葉アーバンデザインセンターホームページ:https://www.udck.jp/about/000248.html
行政から見たUDCK(柏市役所の方のおはなし)*3
UDCKが設立される以前は、市のまちづくりに関する行政計画書策定時の市民との意見交換の場は、審議会・検討会・協議会等であった。学識経験者に会議のまとめ役を依頼し、市民を公募し、事業者には参加を依頼する、という形をとっていたが、行政が主導となっているため、市の方針に従った計画ありきで、会議に参加している市民・事業者は「見守り」の姿勢が強かった。UDCKというまちづくりのプラットフォームを外部に設置することで、学識、市民、事業者、行政がフラットな関係で連携することができ、企業等の財源や推進力を最大限に活用することができた。
柏の葉キャンパス駅周辺のまちづくりが、総合計画の重点施策に位置付けられていたことから、UDCKへの市の参画を検討するにあたっては、センター内に市職員のデスクを配置するなど、物理的な環境面にも配慮することができた。(こういった「場所」があるということは大きい。)UDCK内の市職員が、課題解決のために調整するべき部署はどこか、どの部署を経てきている課題なのかを見極め、行政内の調整を円滑にすることができている。
*3アーバニスト養成講座での講義資料・メモから。
▼柏の葉エリアのベンチにある犬のリード用フック
構想を実現化する(三井不動産の方のおはなし)*4
当初、三井不動産からUDCKに、2名の職員が常駐職員として派遣された。「国際キャンパスタウン構想に基づいたまちづくり」がミッションであった。当時の担当者にとっては、国際キャンパスタウン構想には素晴らしいことがたくさん書いてあるけど、具体的に何をしようとしているのかが漠然としていて分からない、という印象だった。
その中で、技術的に可能なことを踏まえながら、以下のことを意識して取り組んだ。
1)構想のまま終わらせないこと
これについては、2008年から構想のフォローアップ調査が開始され、構想がどれだけ実現化されているかについての検討が行われた。
2)柏の葉の認知・位置づけを高める
視察数・報道件数ともに増加しており、認知度や位置づけの向上に貢献している。
3)まちづくりを継続する仕組みを作る
2011年にUDCKを任意団体から一般社団法人化し、負担金ならびに構成員の会費をベースにした運営を行っている。
*4アーバニスト養成講座での講義資料・メモ・記憶から。
▼駅前の商業施設ららぽーと周辺
自立するまちづくり組織としてのUDC
UDCKは、柏の葉駅周辺の開発がゼロから始まるタイミングで、アーバンデザインセンターの理念に基づくまちづくりが実践された稀なケースである。開発が進み、住民が住み始める時点で、UDCKが参加するまちづくりの枠組みが既に用意されていた。ある意味、理想的なスタートだったのではないだろうか。現在では、まちづくりについての相談は「まずUDCKへご相談ください」といえる場となっている。それは、駅前に拠点を構え、拠点内に常駐するスタッフがいることが大きな要因であると思われる。
アーバニスト養成講座において、参加者が最も気になったことの一つは、UDCがどうやって自走しているのか、だった。UDCKにおいては、一般社団法人の会費等だけではなく、行政からの予算化された負担金を受けて、様々なプロジェクトを運営している。これは恵まれているケースかもしれない。全国に設立されているUDCの中には、自走できる資金源が少なく、常駐スタッフを置くことが難しいセンターもあり、それぞれの特徴に合わせたスキームの構築を検討している。
▼UDCKから駅方面を見る
全国に展開するUDC
アーバンデザインセンターの定義は「多くの主体が連携する、組織としての場」、「専門家が現地に貼り付くとともに、幅広いネットワークを備える、人材の場」、「人々が集まって行動し、その様子を見せる施設としての場」の3つの資質を備える場と定義される。*5
3つの資質を完璧に備える事例はほとんどなく、それぞれの地域や目的によって優先順位に差が出る場合が多い。
現在、UDCは全国19拠点(2018年8月時点)に展開している。関東以外の地方にも設立が進んでおり、アーバニスト養成講座でお会いした(私の故郷である)福井県坂井市のUDCSの谷根さんも、今まさに「公・民・学」によるまちづくりに取り組んでいる方だった。柏の葉とは違う、(よく言えば)歴史的なまち並みが残る旧市街地だ。高齢化・過疎化の課題に向き合いながら、どのような活動を展開しているのか。“地域の特徴を生かして”というよくある言葉を、言葉だけで終わらせない取組を実践してほしい。
*5「アーバンデザインセンター」アーバンデザインセンター研究会編著