STUDY研究活動・社会貢献
シンガポールの住宅事情とコンドミニアム「THE MINTON」について
宮地 いのり (INORI MIYATI)
シンガポールでは、ランドスケープ事務所に勤務する友人(Iさん)にいくつかの実作を案内していただきました。現地を訪れる前には、お忙しい中、会社にお越しいただきレクチャーもしていただき、至れり尽くせりの旅となりました。
ここでは、案内していただいた中から「THE MINTON」という集合住宅のランドスケープを少し紹介したいと思います。
シンガポールにおける人口増減への対応
経済の発展とともに人口が増加したシンガポールは、60年代から70年代にかけて、「stop at Two(出産は2人まで)」と呼ばれる家族計画キャンペーンの導入が決断され、第三子の出産に対する出産休暇も廃止されるなど、出産抑制措置の実施にまで至っていた。このように、人口増加にどう対応するかが重要な課題となっており、それは住宅供給に関しても同じであった。
国は、70年代からHDB(「Housing Development Board」の略で、シンガポール国民を対象とする公団住宅)という公営住宅を急ピッチで建設し、80年代には交通網などのインフラ整備が一段落させた。また、この頃からは、政府主導による外資誘致政策に伴い、駐在員が増加。この外国人居住者の生活レベルに合わせた住宅を供給するため生まれたのが、コンドミニアムである。
尚、シンガポールの人口の推移は、日本と類似している部分もあり、女性の社会進出、晩婚化、独身族の増加により、出生率が低いことが課題となっている。 80年代には、出生率上昇のため、余裕があれば第三子をとの考えや、近年にあたっては、第三子出産には、ボーナスを与えるというキャンペーンもあるそうだ。
▼世界の世界経済のネタ帳より
▼シンガポール・人口増加率(%)
シンガポールの持家率と住宅購入時における福祉制度の活用について
前段にて、政府がHDBという公営住宅を建設したと述べたが、シンガポール国民の約8割はこのHDBに暮らしているという。また、シンガポール国民の持家率は9割と、日本での持家率と比べると非常に高い数値となっているが、この持家率の高さには、シンガポール独自の福祉制度が関係している。
シンガポールでは、シンガポール国民及び永住権保有者を対象としたCPF(Central Provident Fund=中央積立基金)という制度がある。この制度は、積立(給与天引による自己積立)方式を導入した、国民の老後の生活資金確保のための支援であり、定年時における積立額全額プラス利子の受給が確保されている。 CPUの機能は以下の図に示すとおりで、個人口座の普通口座から住宅購入の際の頭金としても充当できるようになっている。この制度により、政府が目指した持家率100%に近い形で成果が出ていることがわかる。
▼出典:「高齢化社会における持続可能な福祉を考える―シンガポールの年金制度(CPU)― 2004年9月」(シンガポール駐在員事務所 日本政策投資銀行 より)
ここからは、実際に視察させてもらったコンドミニアムと、途中に立ち寄ったHDBについて紹介する。
HDB
コンドミニアムには、外観はほとんど日本の公団住宅と同じような感じのもので、コンドミニアムのように塀などで敷地を囲ってはおらず、建物の1階部分に店舗が入っており、店舗舗の前では、住民たちが飲食とおしゃべりを楽しんでいたのも風景が見え、とても開放的な空間であった。
▼HDB 外観
▼HDB 1階の飲食店前
THE MINTON
THE MINTONの入口は、リゾートホテルのエントランスのようにしつらえられおり、ここの住民でない人は簡単には入れないようになっていた。今回は友人のお陰で中に入ることができた為、とても貴重な機会をいただいたと思う。 エントランスは、写真を撮り損ねてしまっていたのだが、エントランスの壁面緑化が絵画のようで、高揚感が高まった。 中に入ると正面に広い水面(プール)が広がっており、その両脇に住宅棟が見え、日曜ということもあってか多くの家族連れで賑わっていた。
▼THE MINTON 外観(資料:インターネット上より借用)
▼エントランス入ってすぐのプール
▼配置図(資料:インターネット上より借用)
エントランス正面の中庭空間を横目に、敷地の奥側にある中庭へ。こちら側のエリアは高低差を活かした空間となっており、木でしつらえたブリッジが空間をかっこよく引き立ててくれていた。ブリッジの下にはビオトープがあり、ライブラリー前の滝の音を心地よく聞いたり、水面の魚を眺めたり、周辺に生える多種多様な植物を眺めたりととても穏やかな気持ちにさせてくれる空間となっていた。こちら側にもプールがあるのだが、エントランス前のプールと違って、静かに過ごす人たちがいて、2つの中庭の使い分けができていると感じた。 他にも、人々が庭(屋外)で過ごすための、様々なしつらえがなされていた。
▼敷地の奥にある住宅棟にいざなうブリッジ
▼大きな樹の下にいるかのようなブリッジ下
▼水と緑が豊かな中庭で憩うファミリー
▼家族連れでにぎわう子供用プール 満開の花の下で遊ぶ子供たち
シンガポールは地震も台風もないため、日本では建てるのが難しいだろうと思われる建築が多くあるのも印象的だった。
▼OMA設計のコンドミニアム