STUDY研究活動・社会貢献
アジアで最も将来性が高い都市シンガポールの価値とは -シンガポールのセンシュアス都市としての魅力度をみる-
山添 崇史 (TAKASHI YAMAZOE)
昨今は都市のランキング流行(はやり)である。ニュースなどにも掲載されるランキングだけで見ても、成長力ランキング((株)東洋経済新報社)や幸福度ランキング((株)日本総合研究所)、都市総合力ランキング((一財)森記念財団 都市戦略研究所)など様々なランキングが飛び交っている。それぞれにランキングの考え方も多種多様であるように、都市の魅力は見る人の視点によって千差万別であるとも言える。都市の魅力とは何か。都市の価値とは何か。経済力だけでもないし、人口だけでもないはずである。以下は、アジアで最も将来性が高い都市とも言われているシンガポールにはどのような都市の魅力があるのか、その要素を短い滞在時間の中で思考を巡らせた雑感である。
様々な都市のランキングから
一般的にニュース等で報じられたりレポートで紹介されたりしている都市ランキング等の中では、シンガポールの順位は大体アジアの中でトップクラスを示している。(下表参照)いわゆる都市ランキングは、あくまでも外部から都市を俯瞰した形で様々なデータを基に順位付けをしたものであり、人・モノ・金など外部要因から捉えるものが多い。
しかしながら、暮らす人や訪れる人の視点に基づいた感受性や感性から捉えた都市の魅力というもので見ると実際はどうなのか。
2015年にHOME’S(ホームズ)総研から発表された「センシュアスシティ調査」は、都市における官能的な体験の実際をつかむために6つの指標に基づいた計32の項目で点数化し話題を呼んだ。センシュアスの視点からシンガポールの都市としての魅力としてはどうなのか視察した体験から考えてみたい。
▼様々な都市のランキング
▼センシュアス調査(HOME’S(ホームズ)総研)
感受性や感性の視点からみたシンガポールの魅力
センシュアス指標① ― 共同体に属している
~学校、地域の寺社、銭湯、商店、飲食店など地域との緩やかな繋がりが感じられる場所があるかどうかは都市のコミュニティのあり方として重要なポイントである。~
シンガポールは多民族国家らしく、リトル・インディア(インド系、ヒンドゥー教)、チャイナタウン(中華系、仏教・道教)、アラブ・ストリート(マレー系、イスラム教)などそれぞれが属する文化圏のコミュニティエリアがある。また、一方で、富裕層の多くが暮らすコンドミニアムのエリア、一般国民向けのHDBと呼ばれる高層アパートのエリアがあるなど、収入や文化に応じた多様なコミュニティが形成される街が適度に分散している。
▼アラブストリート
▼インディアンストリート
センシュアス指標② ― 匿名性がある
~都市生活者にとって、共同体との繋がりと同様に重要なのが匿名性であり、適度な無関心のある街かどうかは都市生活者の作法として重要なポイントである。~
観光スポットを中心に廻ったこともありシンガポールの日常を垣間見る時間は少なかった。しかし、移動の途中では一人でジョギングや体操など皆それぞれの楽しみ方をしている姿がみられたし、公園でも木陰で一人で読書したり犬の散歩をしたりする姿もみられた。多民族国家らしく多様な人種が入り交じった街中の暮らしは、差別や干渉もなく、一人でも居心地の良いライフスタイルが存在しているように思えた。
▼遊歩道でくつろぐ
▼緑の中のカフェ
センシュアス指標③ ― ロマンスがある
~パートナーとのロマンチックな時間が過ごせる空間、素敵に着飾った異性がまちを歩く空間は、都市を華やかに艶っぽく演出する重要なポイントである。~
シンガポールは夜が美しい。マリーナベイ地区の煌めく夜景、ライトアップされた歴史的な建造物、夜景を見ながら寛げる公園などロマンチックなシーンにぴったりな空間があちらこちらにある。また、シンガポール川の下流域の3つの埠頭(ボートキー~クラークキー~ロバートソンキー)をつなぐ川沿いの一帯は、美しい街並みとセンスの良いレストランが美しいライトアップで彩られる。
▼ライトアップされた建物
▼夜のカフェ
センシュアス指標④ ― 機会がある
~人はチャンスを求めて都会に集まってくる。様々な可能性が誰にでも開かれているという予感を感じる都市であることは成長の原動力として重要なポイントである。~
世界のお金が集まるシンガポールは、やはり活気がみなぎっている。その象徴であるマリーナベイ・サンズは、一攫千金のカジノ、一流品の揃うショップストリートを有し、奇抜な建築デザインとともにラグジュアリーな存在感が圧倒的である。しかし、ビジネスチャンスばかりの街でないのがシンガポールの特徴である。アート地区のギルマン・バラックスや街のあちこちで催される野外コンサートなど、文化の面でも刺激的な街であることには間違いない。
▼マリーナベイサンズ
▼ギルマン・バラックス
センシュアス指標⑤ ― 食文化がある
~どれだけインターネットが発達しても食にはリアルな都市空間が必要である。毎日の食べ物が美味しいというのは都市に住む理由として重要なポイントである。~
「おいしい」は世界共通の言語である。シンガポールリバー沿いのレッド・ハウスでは定番のチリクラブを、カトン地区ではプラナカン料理のラクサを味わい、シンガポールの代表的な味覚を楽しんだ。また。デンプシーヒルにあるChopsuiCaféやラッフルズホテルでのアフタヌーンティーは植民地時代の極東の華やかさを感じることができた。記録として残すことのできない「味覚」は、街の個性を直感的に感じるための重要なファクターであるように思う。
▼ラクサ
▼アフタヌーンティー
センシュアス指標⑥ ― 街を感じる
~毎日生活する都市空間を心地よく感じるかどうかは、都市景観のハードとしての要素とソフトとして要素が合わさって作られるものであり、重要なポイントである。~
歴史を大切にしているかどうかは「街を感じる」部分で大きなファクターとなっているのではないだろうか。表面的な美しさのみならず、街が歩んできた歴史(時間軸)の積み重ねを感じることで、味わいに深みが出てくると思う。その点で、カトン地区チャイナタウン・リトル インディア・アラブストリートなどの民族文化を残した歴史地区、植民地時代の歴史的建造物が残るシティホール周辺など、ルーツを意識した街の姿は「作りモノ」ではない「生きている街」を感じさせるものである。
▼ナショナルギャラリー
▼カトン地区
センシュアス指標⑦ ― 自然を感じる
~都市に暮らす人間にも、たとえそれが人工的に作られたものであれ、日々の生活の中で自然に触れることは必要であり、重要なポイントである。~
建国当時のシンガポールは市街の緑がむしろ少ない都市であったと言われている。世界的にも最先端の緑地計画や緑化技術を取り入れ、緑豊かな都市基盤の整備を進め、庭園のように美しい都市を実現している。ガーデンズ・バイ・ザ・ベイのような近未来的な自然公園を持つ一方、多彩な熱帯植物や世界最大規模の洋ラン園などがあるシンガポール植物園(2015年に世界遺産に登録)なども有し、まさに都市と緑が共存した都市としては、世界の都市の中でもトップランナーである。
▼ガーデンズ・バイザ・ベイ
▼シンガポール植物園
センシュアス指標⑧ ― 歩けること
~歩けること、歩いて楽しいことは、ヒューマンスケールのまちをつくる上で、欠かすことの出来ない要素として重要なポイントである。~
シンガポールの街全体が歩いて廻ることを基本にしているように見える。雨の多い気候らしく、バス停留所や歩行者用通路、横断歩道まで屋根付きで、傘を使わなくても移動できる空間に配慮している。また、旧マレー鉄道跡地を利用した「レールコリドー」、全長9Kmの3つの公園をつなぐ遊歩道「サザンリッジス」など、基本的に歩行者を中心した都市づくりが行われている。
▼屋根でつながっているバス停~歩行者通路
最後に
21世紀は都市間競争の時代と称されて久しい。都市間競争の中で、世界の中でもトップ集団の中にいるシンガポールは、合理性・機能性・経済性という物的なモノサシにおいて優れているだけでなく、人間的な都市の魅力を測るモノサシにおいて見ても優れている都市であると感じる。
2020年東京オリンピックまでの間に、今のTOKYOがどこまで変わることができるのか、その取り組みに期待したいと思うとともに、是非その変革の中に関わっていきたいと感じた視察であった。