STUDY研究活動・社会貢献
つくり方と使い方
海老原 芳 (KAORU EBIHARA)
訪問地選び
景観計画と広場整備。一見共通点が無いように思われる今回の訪問地だが、私の中では必要十分なストーリーがある。
約10年前、大学院での私の研究フィールドは、伝建地区*1である奈良県橿原市今井町だった。当時、研究室で橿原市からの委託事業として伝建地区の見直し調査を請け負い、地区内の修景事業の事例研究を修士論文のテーマにした。当時、研究の一環として、景観計画と出会い、歴史的町並みを有する都市の景観計画を読み漁った中に小田原市があった。色彩景観に力を入れた計画づくりが印象的だったことを記憶している。建物デザインや色彩を地区ごとに整理していた。数ある景観計画のうち、冊子デザインに惹かれたのも記憶に残っている理由だと思っている。
伝建地区では、いかに当時の伝統的なデザインファサードを維持継承していくかに重きが置かれていた。多くの伝建地区が観光地化する一方、今井町では“住まう場”であることを重視し、地区内にカフェなどの集客施設は当時1・2軒しかなかった。年中研究の一環で地区内を歩いていたが、スーツケースを持った観光客なんて会ったことはまさに皆無だった。伝統的なデザインやモジュールの美しさや部材に残る歴史の重層性に魅了され没頭していた研究活動の一方で“使われていない、取り残されたまち”という、マイナスイメージを心のどこかで持っていた。忘れもしない、台湾東海大学との交流研究発表の際、“寒くて使いづらい建物なのに、一体何のために保存するのか。”という質問を受け絶句した。それ以降、良いもの素敵なものであっても“いかに使ってもらえるか”や“自分が使い手としてどう感じるか”といったキーワードが私の見る目の一大フィルターになっている。景観計画策定・運用においても広場の整備においても究極は同じで、その建物や空間がどのように使われるのか、その結果どんな風景や日常が生まれるのかが重要なのだと思っている。
*1 伝統的建造物群保存地区。令和3年8月2日現在、全国で128地区が指定されている。
ひろばのつくられ方と使い方
前置きが長くなったが、ここからは今回の旅を通してみてきた広場について話を映したい。今回は小田原駅直近の北条ポケットパークと町田駅から徒歩5分ほどのぽっぽ町田の屋外広場を立地特性・空間特性から比較する。
北条ポケットパークは、まちの中心エリアに位置し、複数の通りが交差する場所に位置している。ポケットパークの四方は解放されており、面する通りには、飲食店や土産物が立ち並んでいる。一方、ぽっぽ町田は、建物の南面に屋外広場が設けられており、広場と通りが接してるというレイアウトである。チェーン店等が建ち並ぶ商店街の通りに面している。
事前に調べた情報では、北条ポケットパークもぽっぽ町田の屋外広場も、いずれも定期的なイベント等が開催されており、積極的な活用がなされている空間だと思われた。実際に現地を訪れてみると、北条ポケットパークでは催し物などはなく滞留している人はおらず、時間を持て余している人が携帯をいじっていたり、高齢者がただぼんやりと日向ぼっこをしている姿が2・3名いたのみだった。自分も広場に座って、ペットボトルのお茶を飲みながら、風を感じてみたりしてみたが、なんとなく落ち着かない。木陰になる樹木や肌馴染みの良いベンチが無いからだろうか。期待外れな気持ちのまま早々に立ち去ってしまった。
反対に、ぽっぽ町田は、樹木が生い茂り、鳥のさえずり(BGMであり、実際に鳥がいたわけではない)が聞こえてきた。思わず、ぽっぽ町田1階の物産展でアイスを買い、外で食べた。周囲の人たちを観察してみると、おやつを食べている幼い子どもとその母親や遅めのコンビニランチを食べているビジネスマンのような人も居た。近くの若者は、随分長い間、携帯で世間話をしている。
既出の資料*2には、ぽっぽ町田の屋外広場整備の波及効果について、“広場で休憩して疲れを取ることにより、その後の街なかの回遊の活性化が期待できます。”“居心地の良い魅力的な広場には、飲食・会話などをして楽しく過ごすことを第一目的とした来訪者を集客する効果があると考えられます。”とのコメントがつけられている。まさに、その時の私そのものだった。広場で心地良くアイスを食べたことで、もう少し街を巡ってから帰ろうという気持ちにさせられた。互いに会話をすることはなかったが、なんとなく、そこに佇む人たちと空間の心地良さを共有している気分になった。仕事をしている時間以外は、我が子のにぎやかさに振り回されている私だが、独り旅もいいものだと改めて思った。
▼ぽっぽ町田の屋外広場
▼「広場づくりのコツ、あります。」(国土技術政策総合研究所)*2
*2 今回の旅のしおりとして活用した「広場づくりのコツ、あります。」(国土技術政策総合研究所)
ひろばをつくると使う
2020年6月、都市再生特別措置法が改正されて以降、さまざまな自治体でウォーカブル推進都市に対する政策が立てられ、試行錯誤が始まっている。私が住む豊島区でも都市空間活用プロジェクトとして、道路活用イベントや公園整備が行われており、地元ユーザーとして楽しく利用している。IKEBUKURO LIVING LOOPでは、池袋駅東口から伸びるメインストリート「グリーン大通り」の活性化を目的に組成された「グリーン大通りエリアマネジメント協議会」主催のマルシェなどを中心としたイベントを開催している。
まちづかいのユーザーとしてのみならず、まちづくりのプランナーとしても今後一層面白くなる国の取り組みだと感じている。
▼豊島区の計画(豊島区HPより引用 国際アート・カルチャー都市 実現戦略推進事業 – 豊島区)